スロウスタート8巻 感想
スロウスタート8巻までのネタバレあり。
読んでない人は先に読んでくるように。
宣言しても逃げることはできるらしい。
というのは若干誇張で、日曜に書き始めてはいたのだけれど、感想を書くという行為が苦手過ぎて、今日までかかってしまったというのが本当のところ。
自分の書いた感想を読んでるとレポートみたいだなと思うのだけれど、よく考えたら、初めてまともに感想を文字にしたのはレポートのような気もするし、ある程度は仕方のないことなのだろう。
今日はスロウスタートの話。自分はアニメから入って漫画は1巻だけしか目を通してなかったんだけど、5月に既刊全部読んでガチの名作じゃんとなった。
百地たまてとしての責も果たしたと言える。
この漫画の好きなところ、言及したいところはまあ様々にあるのだが、今回は差し当たって、最新8巻(の後半)の感想を。
8巻はスロウスタートの根幹に関わる巻で、後半部で、一之瀬花名の浪人を皆が知るところとなるという一件が描かれる。
この一連の話が本当に優しくて、何回読んでも涙ぐんでしまう。
まずは、花名が夢を見る場面の話。
花名はこの一件の前日に、皆に浪人を打ち明ける夢を見る。そしてこれを受けて、話してみても大丈夫かなと考えるのだけれど、ここはとても花名の成長が感じられる場面だと思う。
花名の打ち明け話について、篤見唯子先生は、アニメ化の際の作者インタビューで、
(浪人を打ち明けるという行為について)「当初の花名だったら、誰かが「大丈夫だよ」と話しかけても「でも」とか言っちゃうと思うんですよ」
と述べている。初期の頃の花名には、こういったマイナス思考が根付いていて、それが打ち明け話への心理的な障害となっていた。
けれども、話が進む中で、花名の思考には段々と変化が見られてくる。そして8巻まで来ると、例えば兆野綴との会話では、「私が考えるほど悪いことって起きたことなくて、だから兆野先輩もきっと大丈夫です」なんてことが言えるようになっている。スロウスタートは、ゆっくりと前進していく、一之瀬花名の成長を丁寧に描写している。
浪人を打ち明ける夢はそれまでにも何度かあったけれど、それらは浪人万歳!で終わるような、ギャグ要素の強い、現実離れしたものだった。
そんな花名が、それまでとは明らかに違った、「あまりにも普通でリアル」なこの夢を見ることができたのは、間違いなく成長の現れであって、それだけでもう、超特大丈夫に決まっているのだ。
小物として見逃せないのはプリンだと思う。
思わず逃げ出してしまった花名に対して、栄依子は購買のプリンを買って来るのだけれど、ここには大会さんとチョコを食べる回(step49)が活きている。
step49は少しビターなお話で、花名が浪人中、苦い気持ちで苦いものをよく食べていたことが語られる。そんな花名に、大会さんは甘すぎるチョコを食べさせて、「今はこのくらい甘いのが、ちょうどいいのではないだろうか」と、素敵な対応をする。甘い世界には、それに見合った甘いお菓子を。
このエピソードを踏まえると、本題に入る前に、プリンを皆で食べるというシーンは、それからの甘くて優しい展開を、柔らかに暗示してくれている。
スロウスタートは、読者に対しても優しい。
それから億果実について。
果実はこの一連の話のキーパーソンで、時は中学3年生の雪の日、家の鍵を失くし困って立ち尽くしていたところ、花名に声をかけられる。
人見知りの花名にとって、知らない人に話しかけるなんて行為はもの凄くハードルが高いことだ。それでも花名は、困っている果実を見て、相手のことを想って、なけなしの勇気を振り絞る。自分のことでは動けなくても、相手のために動くことは出来る。
相手の気持ちを考えて(時には考えすぎて)、共感できて、行動できる。この優しさは、まごうことなき花名の美徳であり、彼女の周りでは誰もが、それに少なからず救われている。
そして、当時対人関係に冷めてしまっていた果実も、間違いなく、花名の優しさに救われたうちの一人だ。そんな果実が花名と再開し、話したくても踏ん切りがつかない花名の背中を、図らずも押すことになるというのは、なんとも優しい繋がりだと思う。
つらつらと感想を並べてきたけれど、とどのつまり何が言いたいかというと、スロウスタートがとっても優しい話だということだ。一之瀬花名が、夢見た通りみんなに優しく受け入れてもらえて、億果実とも改めて友達になれて、本当に良かった。
しかし、改めて考えてみると、たった1歳の差なんて、端から関係なかったのかもしれない。
だって彼女たちは、文字通り「桁」が違うのだから。
・・・。
え、そういうことなんですか篤見先生!?
参考